trickkerrのブログ

映画の感想を書こうかなと思ってます。

映画「デリシュ!」――人生の革命の物語

観てからけっこう経ってるんだけど、ちらっと聞こえてきたテレビで話されてた感想(「スカッとする復讐でしたね」)がわたしのものとあまりに違ったので、わたしの感想も書いておく価値があるかもしれないと思って、書く。

これは復讐ではなく、一人の料理人の「人生の革命の物語」だ。

ネタバレめっちゃあり。記憶が薄れてるところも多分けっこうある。

デリシュ!ポスター

公式HPよりあらすじ

1789年、革命直前のフランス。誇り高い宮廷料理人のマンスロンは、自慢の創作料理「デリシュ」にジャガイモを使ったことが貴族たちの反感を買い、主人である傲慢な公爵に解任され、息子と共に実家に戻ることに。もう料理はしないと決めたが、ある日彼の側で料理を学びたいという女性ルイーズが訪ねてくる。はじめは不審がっていたマンスロンだったが、彼女の真っ直ぐな想いに触れるうちに料理への情熱を取り戻し、ついにふたりは世界で初めて一般人のために開かれたレストランを営むことになる。店はたちまち評判となり、公爵にその存在を知られてしまう…。

「革命直前のフランス」ながら、舞台はパリから遠い公爵領。

バスティーユ監獄に襲撃にいく雄々しい民衆とかは映りません。

なので、華やかな革命シーンを期待して観る映画ではない。

田舎の宿場で一人の料理人に起こる、「静かな人生の革命」の話。

見どころ1…貴族のお食事風景

冒頭のお貴族様方のお食事シーン、公爵と招待客の貴族が、最初は主人公マンスロンの料理を褒める。

なんかエスプリが効いた褒め方してた。

だけど直後、聖職者のおっさんが食材がジャガイモとトリュフだと聞いた途端、「それらは土の中になるもの!つまり豚の食べるものだ!」と主人公マンスロンを罵倒する(ちなジャガイモをよく食べるドイツにも悪態吐いてた)。

これに乗っかる、さっきまで褒めてた貴族の方々。手の平くるんくるん。

なんかエスプリの効いた罵倒がこれ下品なことよ。

見どころ2…ルイーズの正体

公爵の城を追い出されて故郷で宿場を営むマンスロンのところに現れたルイーズ。

貴族のところでゼリー(ジャムだっけ?)を作っていたと言うが、手の荒れてなさから「娼婦じゃね?」とマンスロンに迫られる。

ルイーズのことを娼婦だと思いこんだまま続く宿場の日常。

公爵がパリからの帰りにマンスロンのところに食事しに寄るぞって言ってきて、ルイーズが料理になんか仕込んだような、瓶を隠すような動きをする。←ここでルイーズ何者!?ってなる。

ところが約束をすっぽかす最低な公爵。何だよあいつって空気の中、出来上がっていた料理を食べようとしたマンスロンの息子の手を弾くルイーズさん。

地面に落ちた料理を食べた鳥がお亡くなりに。

実はルイーズ、公爵に嵌められ殺された夫の復讐を誓う未亡人だったのだ!

見どころ3…ひっちゃかめっちゃか迷惑公爵

貴族夫人だったルイーズの行き届いたサービスで繁盛してたマンスロンの宿場。

公爵のお城で出してた料理を庶民にゆっくり味わってもらう初期レストランは、ルイーズがいなくなってどんどんお客が減っていく。

マンスロンまじお前料理しかできねーのな……。

って時に、またも公爵から「お前んとこでパーティーするからよろ!」との通達が。

前回のこともあって公爵に腹が立ってたマンスロンは、修道院に入っていたルイーズを迎えにいく。

このあたりまでは「一緒に復讐しようぜYeah!」って感じなのかなと思ってた。

公爵家から調度や支度金まで届いて、今度こそは公爵ちゃんと来るんやろな、って雰囲気。

だが今度は!「一週間早く行くからよろ!」との連絡が。ふざけんな公爵。

やってやんぜと急ピッチで準備する中、公爵が来る前日。マンスロンが故郷に戻ってきてから一緒に暮らしてたおじいさんが酒樽の下敷きになって死亡。泣いた。

悲しみを隠して料理に戻るマンスロンに腹を立てる息子。

親子喧嘩からのガチボヤ案件勃発。

マンスロンの手が焼けただれ、これでは料理が出来ない。そこでルイーズが代わりにやることに。

何とか全ての準備が整った。あとは公爵を待つだけだ。待つだけ……って来ないんかーい!!!おんどれ公爵ー!!!

こっちはおじいちゃん死んでんねんぞ!!!

見どころ4…復讐ではない、これは意志表示だ

マンスロンは公爵に面談を求め、公爵をレストランに招待することに成功。

そもそもマンスロンがいなくなってから食事が楽しくなくなっていた公爵、自業自得だし絶許。

さあここでやっと毒でも入れて復讐か!?と思いきや。

公爵は自分と愛妾だけがマンスロンのところで食事するのだとやってきたのに、何か店の中にどんどこ平民が入ってくる。

「あれが公爵よ」「案外小さいのね」なんて楽しそうに喋っている平民たち。「案外小さいのね」ってちょっとこう、色々な意味よな。

ここで登場、ルイーズ。

過去に自分が口説いてフラれて腹いせにその夫を殺した覚えのある公爵、ひえっとなる。

ルイーズ、ここで公爵のカツラをズラす! 権力の象徴のカツラを!

平民と同じ空間で食事させられることに我慢ならなくて、さらにカツラずらされて飛び出していく公爵。

ルイーズとマンスロンの復讐は、公爵を殺すことではなくなっていた。

彼らが「こうしたい」という空間を実現し、見せつけること。

貴族と平民が隣同士のテーブルに座って食事をする空間の実現。

これは復讐ではなくて、平民でかつ公爵と繋がりのある彼らが出来得た、意志表示だ。

これが、パリではなく田舎のフランス革命なのだ。

貴族の城を追い出されたマンスロンのたどり着いた、彼の人生の革命なのだ。

見どころ5…ちゃっかり執事

マンスロンに対してずっと偉ぶっていた執事。

公爵が逃げ帰ったあと、この執事、ちゃっかりカツラ脱いでレストランの平民のお客の接客をし始める。

革命でそれまでの上流の職を追われてもそれなりに楽しく生きていくタイプの人間ですわ、これ。

全体の感想

フランス革命で城に勤めていた料理人が町に下りて、生活のためにその料理を振る舞うレストランやカフェを作った、というのは知っていた。

その中にいた一人の料理人が成したかもしれないことを描いたこの映画、派手ではないけど丁寧でちょっとサスペンスで、わたしは、この映画のテーマを「復讐じゃないよ意志表示だよ、その意志を持つことになったマンスロンの人生の革命の話だよ」って読み取りました。